研究内容

 私たちの研究室では、パラフィン包埋切片からDNA/RNAを抽出して、分子病理学的に遺伝子解析する手法を得意としています。

この手法はがんゲノム医療でも応用されており、今後さらにニーズの高まる技術と考えています。

 

上記の手法を応用して、リンパ増殖性疾患やリンパ腫など「リンパ球」に関連した疾患の解析を中心に行っており、国内でもトップレベルの研究成果を出しています(「研究業績」をご覧ください)。

 

我々の研究室では共同研究も積極的に行っており、現在も 血液内科、総合内科、頭頸部外科 などと進めています。

 

 

(1)IgG4関連疾患の病因・病態および発がんに関する研究

 

  IgG4関連疾患では、顎下部リンパ節における胚中心進展性異形成(PTGC)や耳介周囲の皮膚にできる結節性紅斑の一部がIgG4関連疾患であることを世界で初めて見出し報告しました(Mod Pathol. 2012, 2013)。また、病態形成にマスト細胞が深く関与していることも世界に先駆けて報告しましたMod Pathol. 2014, Sci Rep. 2018, Int J Mol Sci. 2020)。また、発がん関連蛋白が高頻度に発現していることも見出しました(Sci Rep. 2019, Int J Mol Sci. 2021)。IgG4関連疾患は難病の指定(指定難病300)を受けており、厚生労働省研究班のメンバーとして、正確な診断基準の確立と病態解明を目指して研究を続けています。

 

 

(2)Castleman disease の診断基準確立と病態解明

 

  特発性多中心性キャッスルマン病(idiopathic multicentric Castleman disease; iMCD)は原因不明の指定難病(# 331)であり、近年世界的にも注目を浴びている疾患です。病理診断の難しい疾患ですが、我々の研究室では鑑別診断基準を世界に先駆けて提唱しました(Mod Pathol. 2009, J Clin Pathol. 2010, J Clin Exp Hemtop. 2020)。また、TAFRO症状を伴うiMCD(Castleman-Kojima disease; iMCD with TAFRO symptom)の臨床病理学的特徴とその診断基準を国際共同研究で発表しました(Am J Hematol. 2016, 2021)。iMCDの診療ガイドラインも国際共同研究で作成し発表しました(Blood 2018)。

現在も病態メカニズムの解明に向けて遺伝子発現解析を進めています。

 

 

(3)免疫不全関連リンパ増殖性疾患の病態解明

 

  メトトレキサート(免疫抑制剤)を使用中に発症するリンパ増殖性疾患を中心に研究を進めています。見た目は「がん(悪性腫瘍)」ですが、大半は服用中の免疫抑制剤を休薬することで自然に治ってしまいます。我々の研究室では、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に類似したタイプでは免疫抑制剤の休薬で自然治癒するが、ホジキンリンパ腫に類似したタイプでは抗がん剤治療が必要なことを見出しました(Cancer Sci. 2017)。現在、このメカニズムの解明に向けて研究を進めています。

  EBウイルス陽性粘膜皮膚潰瘍(EBV-positive mucocutaneous ulcer)も見た目は悪性腫瘍ですが、抗がん剤による治療を必要とせず自然に治癒する免疫不全に関連した病態です。これについても病理学的および遺伝子レベルで解析を行いました。その結果、これまで報告されていた以外に多くの病理学的特徴を有するものが存在することが分かりました(Mod Pathol. 2020, Int J Mol Sci. 2020)。さらに遺伝子レベルでは悪性腫瘍と差異がないことも見出しました。引き続きこの疾患の発症メカニズムを解明すべく研究を進めていきます。

 

(4)リンパ腫の臨床病理およびゲノム解析

 

(5)頭頸部腫瘍の臨床病理学的および分子生物学的解析

 


教育内容

私たちの研究室の大きな特徴は、他大学からの進学者が多いということです。これまでの実績として、鳥取大学、川崎医療福祉大学、森ノ宮医療大学、名古屋大学、徳島大学 からの進学者がいます。
上述した研究内容を通して、病院検査室では経験することができない様々な分子病理学的解析手法や遺伝子解析技術を修得することが可能です。加えて私たちの研究室では多くの臨床医や病理医が一緒に研究をしています。彼らと一緒に研究を行うことで、実践的な臨床的知識も得ることが可能となります。

このような研究を進めていく過程で、知的好奇心を育み、本質を見抜こうとする力、すなわちサイエンティストとしての素養を身に付けることを目指します。

 

また「より実践的な知識・技術」を学ぶことで遺伝子に関係する各種認定資格(遺伝子分析科学認定士、上級バイオ技術者、バイオインフォマティクス技術者など)の取得への近道となります。

 

「ゲノム医療サイエンティスト育成コース」を選択した大学院生については、がんゲノム医療中核拠点病院である岡山大学病院で行われている「エキスパートパネル」や「キャンサーボード」などにも参加して、実際の現場を体験してもらいます。

 

細胞検査士の資格の取得を目指す学生には、分子病理学や遺伝子関連の修得に加え、細胞診の習得に必要な講義・演習を用意してあります。全臓器の典型的な細胞診標本も揃っており、勉強用の顕微鏡も一人一台ずつ用意してあります。

 

また、全国各地からリンパ腫およびリンパ増殖性疾患のコンサルテーションが届きますので、実際にそれらの遺伝子診断(すなわち臨床業務)にも携わることができます。